熊本馬刺し店ブランディング支援
小売事業(店頭・通販)のパッケージデザインとブランディング支援
コロナ禍による事業再編で卸売から小売へ
クライアントは熊本城近くに店舗を構える大正4年創業の馬刺し専門店でした。長年にわたり地域に愛されてきた老舗です。しかし、コロナ禍において、主要な事業の一つであった飲食店への卸売が不安定化。この状況を受け、店舗販売やオンライン販売といった小売事業を強化する必要性が高まりました。そのような中、当社へご相談いただきました。
現地調査で見えてきた4つの課題
当初のご依頼のきっかけは、パッケージデザインに関するご相談でした。
プロジェクト開始にあたり、まずは現地に赴き、店舗や工場を調査。ヒアリングを通じて、現状の課題やクライアントの強みが見えてきました。その中で、小売事業の強化を進めるにあたり、以下の4つの深刻な課題に直面していました。
1. ブランドイメージの不統一と認知の課題
紙袋や包装紙の色やデザインに一貫性がなく、バラバラな印象になっており、全体的なコーポレートカラーが定まっていませんでした。結果として、お客様に「肉の大栄」のブランドとして一貫したイメージが伝わらず、せっかくの高品質な商品にも関わらず、ブランド認知と記憶定着を妨げていました。
2. 高級品に見合わないパッケージの「期待感不足」
馬刺しは高価な高級食材であり、特に贈答品としての需要が高い商品です。しかし、既存の商品の箱やパッケージは、その価格や「職人の技術」といった品質に見合う高級感や期待感を抱かせるデザインになっていませんでした。お客様がギフトを受け取る際の満足度や、商品の価値を正しく訴求する上で、パッケージの刷新が急務となっていました。
3. 職人技と商品の魅力の未伝達
長年の歴史に裏打ちされた職人の方々の卓越した技術や、馬肉の鮮度を高く保つための特殊な製法といった、他社にはない「強み」が、既存のパンフレットやWebサイトではお客様に伝わりきっていませんでした。企業様にとっては「当たり前のこと」となっていたこの特殊製法こそが最大の差別化ポイントであるにも関わらず、それが埋もれてしまっている状態でした。
4. 通販オペレーションの非効率化
通販事業の強化を目指す一方で、梱包作業のオペレーションが非常に煩雑でした。多重包装や多種類のシール貼り付け作業に手間がかかり、また、商品の種類に応じて箱の規格も多岐にわたっていたため、梱包に時間がかかり、在庫スペースも圧迫していました。
ヒアリングを進める中で、クライアントの真の課題と要望は「見た目の統一を図りたいが、具体的に何をどうして良いか分からない」という点にあることが判明しました。
パッケージデザインを中心に販促ツール全体の刷新
パッケージデザインを起点に、ブランド統一という目的を達成するため、「何を作るか」という企画フェーズから関与しました。ロゴマーク、パンフレット、ギフトカタログ、包装紙、看板、そして企業の強みを伝える企業動画・リクルート動画といった多岐にわたる販促ツール全体の刷新を提案しました。
また、デザイン品質の向上だけでなく、通販事業強化という目的のために、非効率な梱包オペレーションの改善も同時に提案しました。多重包装や多種類あった箱を整理し、制作コストと現場の負担を軽減する資材の最適化を、デザイン提案と並行して実施しました。特に冷凍パックでの輸送という特性上、パッケージの耐久性・機能性を確認するため、水分や温度変化に耐えられる素材の選定や加工について徹底的に調査・検証を行い、紙の専門的な知識をもって提案に落とし込んでいきました。
また、お土産需要を取り込むため、熊本城近くという立地特性も活かし、路地裏にある店舗へお客様を誘導するための「看板制作」も行いました。
本ブランディング支援では、ブランドの象徴となるデザインの刷新と、事業効率を向上させる技術・オペレーションの改善を両輪で進めました。
新しいロゴマークとコーポレートカラーの導入
まずは、新しいロゴマークとコーポレートカラーの導入を提案しました。
マークのデザインにおいては、大正4年創業の「伝統感」と熊本城近くの「地域感」を盛り込み、既存の「肉の大栄」の文字ロゴと調和するよう工夫しました。これにより、マークと色だけで品質の良さが伝わるように設計。
この統一マークと色を全てのツールに展開することで、ブランドの象徴化と視覚的な一貫性を確立し、特にお土産として購入される方にも一目で認識してもらえるデザインを実現しました。
高級感と期待感を創出するパッケージデザイン
次に、馬刺しという高級食材の価値を正しく伝え、特に贈答品としての期待感を高めるため、パッケージデザインを刷新しました。
高価な商品であるにも関わらず、従来のパッケージが品質に見合う期待感を損なっていたため、ギフトや贈答品としての価値を正しく訴求することが急務でした。デザインを一新することで「中に良いものが入っている」という期待感を創出。これにより、顧客のギフトとしての満足度を高め、リピートや口コミによる認知拡大を目指しました。
言語化できない強みを伝える「企業動画」の制作
クライアントにとって「当たり前」となり、言語化が難しかった特殊製法と職人技を、視覚的に分かりやすく伝えるため、企業動画の制作を提案しました。
パンフレットやウェブサイトでの説明だけでは伝わりきらないと判断し、動画というツールを選定。特殊製法を分かりやすく紹介することで、商品の品質と安全性を強く訴求し、競合との明確な差別化を図りました。
梱包資材の最適化とアイテム整理
多重包装や多種類のシール使用による梱包の手間、そして多岐にわたる箱の在庫がオペレーションの非効率化を招いていました。そのため、現場調査に基づきまずは、多種類あった箱を減らしてアイテムの整理を提案し、梱包の煩雑さと在庫管理の負担を軽減しました。
また、在庫スペースを圧迫していた従来の発泡スチロール箱について、クール宅急便の品質向上を背景に、耐久性のあるダンボール箱でも冷凍輸送に耐えられることを検証。発泡スチロールを廃止し、紙箱へ統一・切り替えることで、梱包の手間と在庫管理の負担を大幅に軽減しました。
冷凍パック輸送を考慮した素材選定
冷凍パック輸送という条件で、水分や温度変化に耐えられるパッケージ仕様を、過度なコスト増なしで確保することを制作意図としました。
ダンボール素材の耐久性を検証しつつ、輸送中の水濡れに対する懸念を解消するため、念のため表面に耐水性を持たせるためのマットビニール引き加工といった表面加工を施しました。このマットビニール引き加工は、耐水性だけでなく、パッケージに上質な見た目の高級感を加える目的も果たしており、品質と機能性の両立を、ランニングコストを抑える範囲で実現しました。

ブランディング支援で認知度向上・販売強化・業務効率化を実現
約1年から1年半の期間をかけて、一連のブランディング支援とツール制作を完了しました。クライアントはブランドの統一感について、「統一できて良かった」「看板はいい感じ」とご満足の声をいただいております。特に、それまでバラバラだったツールの見え方が整理された点について、高い評価をいただきました。
現在、旧在庫との切り替えを順次行っている段階ですが、クライアントは既に徐々に効果を感じていらっしゃる状況です。ロゴマークと色による統一感の確立、そしてオペレーションの改善により、今後販促ツールが全て新しいデザインに切り替わることで、以下のようなさらなる効果が期待されます。
・【認知度向上】統一されたデザインの紙袋がお土産として認知され、口コミやリピート購入のきっかけとなる。
・【販売強化】高級感のあるパッケージが贈答品としての価値を高め、小売事業の売上拡大に貢献する。
・【業務効率化】資材のアイテム整理により、梱包にかかる時間とコストが削減され、事業基盤がより強固になる。
当社の提案は、単なるデザイン制作に留まらず、クライアントの事業課題とオペレーション全体に踏み込んだブランディング支援もおこなっております。





