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パッケージデザインで挑む!米粉サブレのお土産戦略

  • パッケージデザインで挑む!米粉サブレのお土産戦略

「名刺代わりのお土産」で多可町の魅力を発信

兵庫県多可町は、高齢化と過疎化が進む中で、町の豊かな自然や人々の優しさといった知られざる魅力を町外に伝えきれていないという課題を抱えていました。

この課題を解決するため、町役場と地域商社を中心とした方々は、「多可町といえばこれ!」と認知されるような名刺代わりの定番お土産の開発を決意しました。この取り組みで誕生したのが、多可町の特産品である酒米の王「山田錦」の米粉を使ったグルテンフリーサブレ「たかむすび」です。

私たちは、この新しいお土産パッケージデザインを通じて、多可町の魅力を伝え、交流人口の増加と地域活性化に貢献することを目指しました。


地域特産品を活かし、優しさを伝えるパッケージ

クライアントである行政・地域商社からは、「たかむすび」のコンセプトとして「多可町にむすばれる/多可町でむすばれる/人と人との繋がりを大切にする町です」という想いが示されていました。これは、多可町が『敬老の日』発祥の地であり、その習慣でおにぎり(おむすび)を食べる風習があることに由来しています。

まず、地域感の表現として、多可町でしか買えない地域の名産品(山田錦の米粉、棚田風景)を生かしたお土産であることを明確にすること。次に、商品の魅力として、ただ美味しいだけでなく、米粉を使用しているため体に優しいお菓子であることを伝え、中身(サブレ)が分かるように表現する必要がありました。

さらに、コミュニケーションの道具として、「あげる・もらう」人がお互いに幸せな気持ちになれるよう、「優しさ」を感じさせるデザインを追求すること。そして、主要な顧客である40代以上に加え、グランピング客などの若い世代にも手に取ってもらえるデザインにすることも重要な課題でした。

加えて、米粉使用による原価の高さを背景に、販売価格2,000円以下に抑えるというコスト制約の中で、中身を保護できる材質や形状を設計するという、流通面での課題解決も求められました。


徹底した現地視察とコンセプトの確立

魅力的なパッケージデザインを生み出すため、まずは多可町に何度も訪問し、町の歴史、人々の温かい人柄、そして販売場所となる道の駅の雰囲気や周辺の競合商品を徹底的に調査しました。

この体験を通じ、現地の方々の「穏やかで、人がいい」という印象、そしてクライアントコンセプトである「人と人との繋がりを大切にする町」だということを深く理解しました。さらに、米粉を使用した「体に優しいお菓子」という商品特性も踏まえ、これらの要素をすべて統合し、「優しさ」を多可町らしさの核として表現するメインコンセプトに設定しました。

地域の特産品を生かしたお土産ではあるものの、様々なこだわりが詰まっており、伝えたい要素が多岐にわたるため、どのような表現のパッケージが最適かについて迷いがありました。

形状設計の挑戦「空間容積率」の壁

コンセプトに忠実なパッケージデザインを目指すため、初期案では敬老の日の風習を模した三角形のパッケージ形状を提案しました。しかし、ここでは意匠デザインに留まらない、流通・法規制という専門的な壁に直面しました。

具体的に問題となったのは、まず一つ目は「お菓子の脆さ」です。サブレは壊れやすいため、保護が必要でしたが、三角形という形状ではロススペースが大きくなり、中身をしっかりと保護することが困難でした。二つ目は「空間容積率の規制」です。これは外装サイズに対する中身の占める割合(空間容積率)が行政指導の基準を満たせない可能性があることです。将来的な空港や百貨店での展開を見据え、法規制を遵守する必要があったため、この点も大きな課題となりました。

結果として、コスト効率、内容物の保護、法規制の遵守をすべて両立させるため、やむなく三角形の形状を断念し、流通性の高い四角い箱を採用しました。しかし、この一連のプロセスで、私たちはデザイン会社の領域を超え、コスト、流通、法規制まで見据えた総合的な形状設計から関わることができました。


3つのコンセプト案から導き出された最適解

課題解決と形状決定を経て、「地域感」「美味しさ」「優しさ」のバランスを追求したデザインコンセプト案を提示し、多可町の「優しさ」を核とした案の方向性が選ばれました。

最終的なパッケージデザインは、多可町の棚田や町並みを優しいタッチのイラストで表現し「地域感」を確立。マットPP加工を施すことで、価格に見合う上質感と手に取った際の優しさと温もりを演出しました。また、お土産としての価値を最大化するため、以下の関連制作物をデザイン・制作しました。

パッケージ以外のデザイン制作

個包装(小包装)のデザイン
箱のイメージに合わせたマット素材、さらに湿気の透過を防ぐ「ガスバリア性」

ミニパンフレットのデザイン
パッケージに同梱する、お菓子の説明と多可町の情報を裏表で紹介

コピーライティング
商品の魅力と町の想いを伝える文章を制作

地域に愛される「名刺代わりのお土産」へ

完成した「たかむすび」は、多可町の人々の想いと、パッケージデザインにおけるコスト、流通、規制といったプロの課題解決技術が結実したお土産となりました。

道の駅や町の駅に並んだ「たかむすび」は、多可町の人たちが町外の人への挨拶の際に自信を持って渡せる名刺代わりのお土産として機能し、「地域にこういうお土産ができた」という喜びを生み出しています。

私たちは、単に商品を包む箱ではなく、コミュニケーションの道具としてのパッケージデザインを提供することで、今後も地域の特産品の価値を高め、地域活性化に貢献していきます。

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